超クリエイティブ空間「文楽」を観る
前回までの予習「超クリエイティブ空間「文楽」を知る - ブラレイコ」を経て。
いよいよ、観劇へ。
文楽デビューとなる今回は、友人が手配をしてくれたこちらの演目を観にいくことになった。
「女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)」
すごいタイトル……!笑
近松門左衛門の晩年の作品で、江戸時代に実際に起きた事件を参考にして作られたと言う説もあるらしい。
現在では、歌舞伎や映画、ドラマなどにもリメイクされている有名作品と聞き、ワクワクしながら、国立劇場へと向かう。
女殺油地獄を予習する
今回の演目は、午後6時開始で終了は9時。(途中休憩あり)
意外と長い!と思い、国立劇場にある軽食喫茶「濱ゆう」さんで、カレーライスをいただきながら、パンフレットを読むことにした。
▲パンフレットは、二月公演の全ての演目について書かれており、全46ページの立派な冊子。
▲演目の登場人物から、すじがきが書かれているので、初めて行く場合でも、事前に予習ができてありがたい。
今回の演目は、全部で4つの段に別れて構成されていた。
1)徳庵堤(とくあんづつみ)の段
2)河内屋(かわちや)内(うち)の段
3)豊島屋油店(てしまやあぶらみせ)の段
4)逮夜(たいや)の段
それぞれの章で、太夫と三味線弾きのメンバーが入れ替わる。ストーリーとしては、起承転結で進むようだ。
今回の作品の最大の見所である「女殺し」は、3つ目の段で行われるらしい。ドキドキ!
ここで、簡単にすじがきを紹介する。
放蕩息子である河内屋(かわちや)の次男・与兵衛(よへえ)が金に困り、姉のように親しんでいた豊島屋(てしまや)の女房・お吉(およし・現在の文楽では「おきち」)を殺してしまう顛末が書かれた作品です。
若者 与兵衛が、衝動的に起こしてしまう殺人を描いた作品。
与兵衛は複雑な家庭環境の中で育ち、溢れるイラダチを抑えきれずに家族に暴力を振るってしまう。そして、勘当され家を出ることになるが、その裏には両親それぞれの想いと愛があるのだ。しかし与兵衛本人に想いが届くことなく、お金欲しさに姉と慕っていたお吉を殺害することになる…… 。
江戸時代の実話を元にした話らしいが、現代でも昼ドラなどに扱われそうな題材とも思ったり。今も昔も、人間の心情は通じるものがあるからこそ、こうして作品も受け継がれていくのだろうなあ。
そうそう、パンフレットを購入したら、「床本(ゆかほん)集」がついていた。
▲こちらが、床本集。パンフレットに挟まってた。
これは、太夫が語る内容がそのまんま書かれているもの。太夫自身も、語るときは自分用の床本を持って登場する。(実際の床本は手書きのものらしい)
おまけで付いてた床本集は、下記のようにテキストでずらずら〜っと文字が書かれていた。
▲パンフレット+床本集で、お値段650円(だったはず)って安すぎる〜!と思わず感動。
はじめての文楽体験へ
ある程度のすじがきも頭に入ったところで、小劇場の中へと向かう。
前回のブログでご紹介した通り、文楽の舞台って少し独特。(前回のブログの写真を再掲)
ユネスコ無形文化遺産 文楽への誘い より引用
舞台右端には、太夫と三味線弾きがいて、その上には、太夫が語る内容がデジタル表示される。舞台正面には、人形遣いたちが人形を操り演じていく。
さらに、初心者である私は、イヤホンガイドもお借りしたから、耳からは解説が流れてくる。そして、手元には床本とパンフレットを持っている。
…… なんと言う、情報量の多さ!笑
初めは、ソワソワとしたものの、実際に始まってみると、
太夫を見ながら情景を頭でイメージする時と、太夫と三味線を耳で聴きながら人形に注目する時と、自然と使い分けができるものだ。
「あ、これでいいんだな。」と思った。
目の前で行われている人形劇の世界と、太夫と三味線の音で連想する想像の世界が、入り混じる空間。うまく表現できないけど、目の前で起きている事象だけではない、想像の世界観と言うのが、観客の頭のなかには創り上げられていた。
そこには、人形遣いはもはや存在せず、人形だけが動いている世界。
かつて気になっていた人形遣いが演出の邪魔になるんじゃないか、なんて事は1ミリも考えなかった。それくらい、世界が出来上がってしまったから。
特に、豊島屋油店(てしまやあぶらみせ)の段は、本当に素晴らしかった。
油ですべる床の上で、狂気に満ちた与兵衛が逃げ惑うお吉に刀を向けるシーン。人間を超えた動き、まさに人形浄瑠璃の境地を感じる。あれほどの緊迫感を、あれほどダイナミックな動きで表現できるなんて。
太夫と三味線弾き、人形遣いの素晴らしい表現力が融合された、超クリエイティブな空間に、どっぷりと浸り素晴らしい体験ができた。
ちょっと「ぷぷぷ」な文楽のあれこれ
文楽デビューはとても素晴らしい体験だったのだけど、素人から見たら「ぷぷぷ」と吹き出しそうになることもあったので、ちょっとだけご紹介。
- くるりんぱっ!な登場シーン
太夫と三味線弾きの登場シーンが、くるりんぱっ!で面白い。誰も笑ってなかったけど、コントの登場シーンのようで「ぷぷぷ」となってしまうので要注意。
下記が、くるりんぱっ!のイメージ図である。
- 太夫と三味線弾きを紹介する黒子さんの声がか細い
段が始まるときに、必ず舞台上の黒子さんが、太夫と三味線弾きの名前を紹介する。
今回が異例だったのかもしれないけれど、その時の声がか細くて、正直あまりやる気も感じられない…… 「え、大丈夫?!」と心配してしまった私。
これが普通なのでしょうか?
しかも、第1段は、複数の太夫が登場する珍しいパターンだったようで、黒子さんが紹介途中で息切れし、会場の笑いをとっていた。果たして、これはネタなのか?!
謎は深まるばかり。
- 人形の顔が意外と可愛い
よくよく見ると人形の表情に味わいがあるので、ぜひ紹介したい。
目がキラキラしたジャイアンのような顔(写真2段目、右から2人目の端敵)とか、明らかに詐欺師と思わせる顔(写真2段目、1番左の三枚目)とか。
ユーモアがあって、面白い〜。
▲カメラを向けると、ちゃんと顔認識されます◎
- 少し気になる、動きすぎる人形遣い
舞台上で人形遣いが目立ってしまうことが唯一あるとすれば、人形以上に人形遣いが動いてしまう時だ。ジッと我慢するときに、頭がフラッと動いただけで目立ってしまうのだ。
大人数が参加するときに、おそらく若手の人形遣いなのだけど、動きが気になる人がいた。一生懸命だな、とも思ったけど。。。そもそも目立ってしまっては多分ダメなのだと思う。
これは、逆に言うと、人形の動きが必要ないときに、一切動かないでいる人形遣いがすごい、と言う話しなのかもしれない。
今回実演されてた、人間国宝の吉田和生さんも、吉田蓑之さんも、動かない時は全く動かなかった。おそるべし、人間国宝。(これは、ぷぷぷ話とは違うけど書きたかった!)
現実と想像の狭間の世界観
と言うことで、文楽デビューを無事に終えることができた。
文楽の世界を全く知らない状態ではあったものの、実際に行ってみると、演目の内容は現在でも理解できる人間模様であったし、太夫の語りも言葉100%理解は難しいけれど伝わってくるものの方が多かった。太夫、三味線弾き、人形遣いが創り上げる世界観は、独特であり、自分の頭の中の想像とも連動して、とても魅力的だった。
面白かったな、文楽!
今回、ご縁あって、豊島屋油店(てしまやあぶらみせ)の段で太夫をされていた、豊竹呂太夫師匠の楽屋へご挨拶することもできた。
師匠の語りは、息遣いがとても繊細で、込み上げてくる言葉を大切に紡いでいるような、魂の声のような、そんな印象を持った。
師匠ご本人は大変気さくで、とても暖かくお話してくれて、本当に良い想い出となりました。お土産に手ぬぐいもいただき、嬉しい限り。
有難や有難や。大切に使います〜。
次回は、5月にまた観劇予定。それまでに、もっと演者の皆さんのことをしっかりと勉強しよう。
楽しみはつづく☺︎