ブラレイコ

ブラっと訪れた人生の寄り道からの学びを、ゆるふわに綴る場所

超クリエイティブ空間「文楽」を知る

文楽(ぶんらく)と出会った。

事前にサイトや本を読み、イメージを膨らませて行ったつもりが、実際の空間は想像をはるかに超えて素晴らしいものだった。

その驚きと、素人ながらに感じた素晴らしさをご紹介したい。

 

文楽とは何か

日本の伝統芸能であり、ユネスコ無形文化遺産である文楽。だが、わたし自身これまでの人生で触れることが一切なかった。

周囲の友人に「文楽知ってる?」と尋ねても、ピンとこない人の方が多い。(わたしだけじゃなかった!)

そもそも、文楽とは何なのか。

人形浄瑠璃文楽は、日本を代表する伝統芸能の一つで、太夫・三味線・人形が一体となった総合芸術です。その成立ちは江戸時代初期にさかのぼり、古くはあやつり人形、そののち人形浄瑠璃と呼ばれています。竹本義太夫義太夫節近松門左衛門の作品により、人形浄瑠璃は大人気を得て全盛期を迎え、竹本座が創設されました。この後豊竹座をはじめいくつかの人形浄瑠璃座が盛衰を繰り返し、幕末、淡路の植村文楽軒が大阪ではじめた一座が最も有力で中心的な存在となり、やがて「文楽」が人形浄瑠璃の代名詞となり今日に至っています。

文楽とは | 公益財団法人 文楽協会 オフィシャルウェブサイト

 最初に抑えるべき情報は、以下3点。

文楽は、「太夫、三味線弾き、人形遣いが三業(さんぎょう)一体となった総合芸術」とよく表現される。正直「なんのこっちゃ! 」と最初は思ったのだが、観劇したらその意味がよく分かった。

まだ観たことのない方に、少しでもその魅力が伝わると嬉しい。

 

独特すぎる舞台

まず、オススメとしては、文楽の舞台の全貌を把握しておくこと。

文楽の舞台のつくりは、独特なのである。空間のイメージとしては、こちらの写真がわかりやすい。

客席から舞台を見る

http://www2.ntj.jac.go.jp/unesco/bunraku/jp/stage/index.html より引用

▲こちらが舞台の写真。

客席から見ると右手端に 語り手である太夫(左)と三味線弾き(右)が並んで座っているスペース(床、と呼ぶ)がある。舞台正面には、シーンに合わせた屋台が準備され、そこで人形遣いたちが演じる。

下手から舞台を見る

http://www2.ntj.jac.go.jp/unesco/bunraku/jp/stage/index.html より引用

▲斜めから見るとこんな感じ。 

手前の人形遣いが立つスペース(船底、と呼ぶ)は少し低い位置にある。人形遣いの足元は手摺り(てすり)と呼ばれる板によって、観客席からは見えない。手に持っている人形の足の高さが手摺りと重なり、まるで地上であるような印象を与える。

ちなみに、奥の人形遣いは、建物の中をイメージしているため、一段高くなっている。

  
この舞台全貌を知り、みなさんはどう思うだろう?
通常の舞台よりもちょっとパノラマで首が疲れるな、目や耳から入る情報量が多いな、と思うかもしれない。

実際の劇場に行ってみたら、太夫の上段の方に、語っている内容がデジタル表示される看板が掲げられていた。

 

つまり、「舞台右端には太夫と三味線弾き、その上には太夫の語り内容のデジタル看板、そして正面には人形遣いたち」という感じ。

「観るところ多すぎ!(笑)」と突っ込みたくなったけど、実際に演目が始まってみると、不思議と混乱もなく・疲れることなく楽しめた、というのが正直な感想。

それはきっと「三業一体の総合芸術」だからこそ、楽しめたのだと思う。

 

 

それぞれの役割

文楽への誘いという素敵なサイトに、次のような表現があった。

語り手と三味線弾き(ひき)、そして人形遣い(つかい)が、息を合わせて一つの物語を演じる、伝統的な舞台芸能、それが文楽です。全身で声を振り絞る語りや、力強さと繊細さを兼ね備えた三味線の響き、そして人形の美しい動きは、観る者を圧倒します。 


ああ、これは良い表現。このサイト、とても分かりやすい解説をしてくれている。オフィシャルな解説は、こちらを見ていただくとして。

素人観点で、役割別の魅力を綴ってみた。

 

演目のストーリーを誘う人であり、文楽のメイン。声色を自由自在に変えながら、ナレーションと複数の人物のセリフや心情までを一人で操る「最強の語り手」、それが太夫だ。

ちなみに、演出家のいとうせいこうさん、アナウンサーの阿部知代さんは、太夫から表現を学んでいらっしゃるとのこと。

下記は、いとうせいこうさんが阿部知代さんに、義太夫節太夫の代表的な語り節)の面白さを伝えた一説。

「例えば『道があり』と語るとする。義太夫ではその場合、その道はどれくらいの幅で、どれくらいの長さで、曲がっているのか真っ直ぐか、凸凹なのか平らなのか、はっきりとイメージせよと教えられる。それは凄いよ。」

言葉で説明する、演じるという域を遥かに超えて、その情景と人物を再現する。声色や息遣い、言葉遣いを駆使しながら、観客をグっと異空間に誘う。それが太夫の役割だ。

 

  • 三味線弾き

緩急に合わせて体を揺れ動かす太夫の隣に、真っ直ぐと背筋を伸ばして演奏を続ける三味線弾き。

その音は、太夫の語りの相槌であり、擬音であり、効果音であり、BGMである。

舞台の中で、三味線弾きは最も注目されない人物かもしれない。(普通の人なら、太夫、人形に目が向くはず)だが、三味線弾きの「音」としての存在感はハンパない。

例えば、物語のクライマックスに合わせて、三味線の音も、どんどん、どんどん激しくなっていく。緊迫したシーンで、命をかけて戦うシーンで、三味線の弾けるような音色は、わたしの心拍数と重なりあった。

これは太夫だけで表現することは出来ない。もちろん、人形遣いにも出来ない。三味線弾きは、太夫人形遣いの両方に対して、「音」で彩りをつけ、表現を更に惹き立てるのが役割だ。

 

一番の衝撃は、一体の人形を操るのに三人必要だと言うことだ。

つまり、物語に三人登場するとしたら、舞台上に三体の人形がいて、操作する人が九人いる言うこと。驚くべき、人形遣い密度である。

ここに関しては、1個ずつわたしの抱いた疑問を解消していきたいと思う。


▶︎問1「人形一体動かすのに三人必要なの?」
原則として、必要。
人形の丈は130cmから150cm、重さは数kgから10kgを超えるものもあり、細かい動きが出来るようになっている為、操作も複雑である。
ただし、メインでないエキストラ的人形や子供の場合は、一人や二人で操作することもある。

▶︎問2「三人それぞれの役割は?」
人形の右手も扱う演者が「主遣い(おもづかい)」
自らの右手で人形の左手を扱うのが「左遣い(ひだりづかい)」
屈んだ姿勢で人形の足を扱うのが「足遣い(あしづかい)」

左遣いと足遣いは、黒子の格好していて顔は見えない。主遣いだけ、顔を隠さずにそのまんま登場している。

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5分でわかる文楽~人形遣い編 - YouTube より引用

▶︎問3「主遣いの顔が見えていると、演出の邪魔にならないの?」
これが…… 不思議なことに、邪魔にならないのである。

前提として、人形遣いが人形より目立つことは無く、表情もそれほど変化はない。当然激しい動きをすれば険しい顔にはなるけれど、人形よりも前に出ることは無い。

観劇していると、自然に人形だけが浮きだって見えると言うか、人形遣いの方々を意識することがなくなっていくのだ。

実際わたしも、舞台上に5体以上の人形(つまり15名以上の人形遣い)がいたシーンを観たが、目の前の人形たちにしか目が行かなかった。(いま振り返れば、舞台上はすごい人口密度だったと思う…… 笑)

 

▶︎問4「人ではなく、人形である意味は何なの?」

わたし自身、最大の疑問だった。わざわざ人形が演じる必要があるのか、と。しかし、これは体感して分かった。「大いに人形である意味はある!」のだ。

目の前で起きる世界観を、人形は人間以上に再現できる。

人形は必ずしも人間らしい動きだけをする訳では無く、時に、人間が出来ない動きで空間を表現する。それは、驚き仰け反る動きであったり、恐ろしさのあまり滑るように逃げる姿であったり、動かなくなった屍であったり。

 

物語の中で、登場人物が亡くなった時、人形遣いたちはその場に人形を置いて立ち去る。人形は、イキイキと動いていた時と一変して、魂の抜けた屍そのものに見えるのだ。この、ある意味残酷な演出は、人形だからこそできるものだと実感した。

 

文楽の世界へ誘ってくれるサイトたち

ここまでが、観劇前に知っておきたい事前知識だ。

今回、調べてみて思ったのだが、文楽関係のサイトが意外と充実している。
動画で簡単に学べるものもあるので、紹介しておく。

 

文楽とは | 公益財団法人 文楽協会 オフィシャルウェブサイト

▲こちらがオフィシャル的なサイト。

ユネスコ無形文化遺産 文楽への誘い

▲一番わかりやすく、バランスよく纏まったサイト。

[2017年度] そうだ、文楽に行こう!ワンコインで文楽 U-30 - 特設サイト 人形浄瑠璃文楽座

▲5分でわかる文楽動画はオススメ。

 

文楽かんげき日誌 | 独立行政法人 日本芸術文化振興会

国立文楽劇場のサイトにある、コンテンツ。作家、大学教授、イラストレーターなどの文化人たちが、文楽に関するコラムを書いており、とても興味深い。

 

ここまでの前提知識があれば、もう迷うことなく、実際の文楽を体験してほしい。

次回のブログ「超クリエイティブ空間「文楽」を観る - ブラレイコ」では、実際に「女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)」を観劇をしたときの記録をまとめる。 

すごいタイトルに負けず劣らず、その世界観は、本当に強烈にすごかった!

 

 

楽しみはつづく☺︎