30演目観劇した記念:初心者が語る歌舞伎の魅力とは
昨年の10月、勘三郎さん七回忌追善を観て感銘を受けた歌舞伎。
ご縁あって、2018年12月から現在まで、月に1回以上の歌舞伎鑑賞を欠かさずに過ごすことができている。
歌舞伎の世界観は、とても魅力的。
けれども、やはり小難しい。
歌舞伎初心者としては、せっかく体感できたその魅力を忘れることなく、自分自身に定着させていくことを意識したい。
と言う訳で、ちょうど30演目を観続けたこのタイミングで振り返り、素人なりに感じてる魅力を整理することにした。
(歌舞伎通の皆さんには到底及ばず、浅〜い知識ではあるが、素人なりのアウトプットと言うことで、大目に見ていただきたい)
昨年12月から、現在に至るまで観てきた演目一覧がこちら。その数、30演目。
こうして改めて表にすると、結構な量がある。
わたしの場合、まだ贔屓の役者さんを特定している訳ではないため、毎月予定の合う回を観にいくようにしている。
振り返り① 一覧にして気づいた、初心者的 歌舞伎のススメ
・季節限定、特別な歌舞伎の祭典
一覧を眺めると、月タイトルが特殊な團菊祭と秀山祭に目が行く。
歌舞伎には、その季節限定で行われる特別な興行があるのだ。
■ 五月の團菊祭
九世市川團十郎と五世尾上菊五郎の功績を称えて昭和11年に始まった、五月恒例の祭典。詳細はこちら。
今年の團菊祭では、昼の部は「寿曽我対面」「勧進帳」「神明恵和合取組 め組の喧嘩」とどれも名作揃いで、なかでも歌舞伎十八番「勧進帳」は成田屋(市川團十郎家の屋号)のお家芸であり、弁慶を海老蔵さんが演じた。
夜の部では、尾上菊之助さんの長男・丑之助ちゃんが「絵本牛若丸」で初舞台をつとめ、祖父の尾上菊五郎さん・中村吉右衛門さん(おじいちゃんが二人とも人間国宝というスペシャル感!)を始めたくさんの名優たちが勢ぞろい。また、歌舞伎舞踊の頂点と言われる「京鹿子娘道成寺」では菊之助さんの美しい踊りが披露された。
確かに、他の月よりも、スペシャル感があった。
■ 九月の秀山祭
初代中村吉右衛門の功績を顕彰し、その芸と精神を継承していくため平成18(2006)年に始まった祭典。詳細はこちら。
今年の秀山祭では、 初世吉右衛門の父である三世中村歌六の百回忌追善狂言も上演する特別なものだった。昼の部は「極付幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ)」「お祭り」「沼津」。夜の部は「寺子屋」「勧進帳」「松浦の太鼓」と初世吉右衛門ゆかりの演目、歌六の当たり役が続いた。
吉右衛門さんの義息子である菊之助さん、吉右衛門の甥っ子に当たる幸四郎さん、さらには 人間国宝 片岡仁左衛門さんも出演する華やかな舞台となった。
当時のInstagramの感想がこちら ↓
・「歌舞伎十八番」安定の人気演目
さらに、一覧の演目を細かく見ると、「勧進帳」だけ「歌舞伎十八番の内」という冠が付いていることに気づく。
歌舞伎十八番とは、7代目市川團十郎によって1832年(天保3年)に定められたもの。初代から4代目までの團十郎が、初めて演じてしかも得意にしていた18の作品が集められた。
すべて市川家専有の荒事を中心とした代表的な作品の総括で、他家でこれを演じる場合は,市川家に断わるのが慣例となっている。
このうち、人気が特に高いのは「助六」「勧進帳」「暫」の3つ。
初めて歌舞伎を観る!という方には、上記のような「特別興行」や、誰もが知る人気演目「歌舞伎十八番」などは、とても分かり易い。
場の空気もお祭り感があって楽しめるので、オススメだ◎
振り返り② 心を打った、感動の演目ベスト3
これら30の演目を見返すと、当時の感動が蘇ってくる印象的な演目がいくつかある。
特に感動した、3つの演目を紹介する。
1)壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)阿古屋
女方の最高難度と言われるのが、この阿古屋。平成に入って、演じられるのが玉三郎さんしかいないと言われた中、梅枝さん(当時31歳)・児太郎さん(当時24歳)が役を引き継ぐことで話題となった。
玉さまが演じるAプロ、若手が演じるBプロに別れて上演され、わたしは玉さま演じる阿古屋を観ることができた。
舞台は源平合戦の時代。遊女である阿古屋は、とらわれの身。
阿古屋は、恋人である武将の居場所を知っているはずだと、厳しく問い詰められ、琴、三味線、胡弓(こきゅう)、3つの楽器を奏でることでその行方を知らないことを訴える。
この役が最高難度だとされるのは、3つの楽器を舞台上で弾きこなさなければならないためです。
玉さまが演じる遊女 阿古屋は、歌舞伎座の場の空気が一変するほどの、息をのむ美しさだった。
玉さまの阿古屋を生で観られるのは、もうこれが最後しれない…。
そう思うと、同じ空間でその姿・音色を感じられたこと自体貴重であり、本当に至福の時間だった。
当時のInstagramの感想がこちら ↓
2)京鹿子娘道成寺(きょうかのこむすめどうじょうじ)
1時間近くを1人の女方が踊りぬく、女方舞踊の大曲と言われる演目。團菊祭にて、菊之助さんが演じた花子には、人間を超えた美しさがあった。
白拍子(しらびょうし)の花子が道成寺の鐘供養に訪れ、舞を次々に披露するうちに鐘に飛び込み、蛇体となって現れるという設定。内容はいくつかの部分に分けられ、恋にまつわるさまざまな女性の姿を踊り分けることが主眼となっている。
京鹿子娘道成寺 | 歌舞伎演目案内 – Kabuki Play Guide –
素人目でも、女方の舞踊の最高峰であることはわかった。若い娘の恋心が、舞いながら次第に変化し、最終的には蛇体へと変幻する。その微妙な変化を、美しく踊りながら演じる菊之助さんは、本当に素晴らしかった。
当時のInstagramの感想がこちら ↓
3)三谷かぶき 月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)風雲児たち
ここまで、古典歌舞伎のオススメが続いたが、最後は一点。現代の演目。三谷幸喜さんが脚本の三谷かぶきだ。
歌舞伎を次の世代へどう受け継ぐか、を考えたときに、新しい演出への挑戦というのは避けることはできない。役者さんたちは、常に、新しいスタイルへの挑戦をしている。
この三谷かぶきも然り、従来の歌舞伎の概念を超える演出だった。「果たして、これは歌舞伎なのだろうか」という違和感と、「歌舞伎の枠を超えて、目の前の演技への大興奮」が同居した、とても新鮮な演目だった。
幸四郎さん、猿之助さん、愛之助さん、染五郎さん、みんな楽しそうだった。スタンディングオベーションとカーテンコールで歌舞伎座が湧いたのは、後にも先にもこの演目だけだ。
当時のInstagramの感想がこちら ↓
以上が、初心者のわたしが観たときに、その素晴らしさに度肝を抜かれ、特に印象に残った演目だ。
(もちろん、これら以外も、素晴らしい演目、素晴らしい役者さんとの出会いはたくさんあった)
やっぱり、歌舞伎の世界観が好き
こうして振り返ると、当時の感動が蘇ってくるものだ。
やはり歌舞伎には、400年以上の伝統が続いているだけの魅力が詰まっている。
わたしが感じている歌舞伎の魅力は、下記3つ。
① 古典と未来の狭間にいる役者たち
役者さんは、歴代受け継ぐ伝統を、未来にどう繋げていくかを常に考えている。古典と未来の両方の視点を持って日々芸を磨き、鍛錬している。
未来へ受け継ぐことへの責任、歌舞伎への敬愛、役者同士の強い絆が、演技から溢れているところが最大の魅力だ。
② 演出に散りばめられた伝統美
舞台装置、着物、小道具、音楽、舞踊など…… 歌舞伎の舞台には、伝統美が凝縮されている。
特にわたしは、女方の演じる美しい遊女が大好きだ。 美術品に包まれた空間で、美しい仕草や舞いを観ることは、極めて贅沢だと思う。
③ 今も昔も変わらない、人の興味関心ごと
助六のような二枚目にキュンとしたり、義経に忠義をつくす弁慶に感動したり、父親の仇討ちを企てる曽我兄弟に涙したり……。
今も昔も、人の感情が動くシーンってそんなに変わらない。江戸時代の観衆が心を打つシーンで、令和の私たちも心を打つ。
時代を超えても共感できる「人間の変わらなさ」に気づかせてせてくれるのも、歌舞伎の魅力。
まだまだ初心者ではあるが、自分が感じる歌舞伎の魅力は、自分の言葉でしっかりと語れるようになりたい。
今回は、30演目観劇の記念にと振り返ってみた。
演目全てを思い起こすのはヘビーだったが、当時の感動を蘇らせることができた。
定期的な振り返りとアウトプットって、大事だな。
素晴らしい体験は、自分の胸のうちだけに留めておくのは勿体ないから、その体験を言葉にして発信し続けたいと思う。
楽しみは、つづく☺︎