ブラレイコ

ブラっと訪れた人生の寄り道からの学びを、ゆるふわに綴る場所

「おすし」にまつわるエトセトラ

前回、銀座のすしをテーマに記事を書いたのだが、正直まだまだ書き足りない。ということで、今回は、すしにまつわる小ネタをテーマに書き留めることにする。

すなわちこれ、食べる方ではなく、読む方の「すしネタ」集。

元ネタは、こちらの書籍たち ↓ では、早速紹介しよう。

https://www.instagram.com/p/B0rjJsAgq-c/

 

すし= 鮓 or 鮨 or 寿司 ???

まず、最初に私たちが気にしなくてはならないのは、「すし」を表現する漢字だ。

江戸前ずしに使われることが多いのは「鮨」。この文字の経緯は『すし通』(著 永瀬牙之輔)にこう記載されている。

鮨という字は、支那で魚醤(しおから)の意味に用いられた例もあるが、元来魚の名であって、鮪の一種を指して鮨といっているが、それは日本の「しび」鮪に相当している。(中略)天保になって馬喰町の恵比寿ずしが初めてその種に鮪を使ってから、後いつとはなしに鮓が鮨の字に変わってしまった 

シビマグロとは、本マグロのこと。江戸末期、マグロはすしネタとしては賛否両論で、店によって取り扱いの判断が別れたそうだ。

取り扱いのある店は、分かりやすく「マグロ取り扱ってます」と宣伝し、その際に「鮨」という文字を用いた。それが次第に「すし」丸ごとを意味するようになって言った。

当時のマグロは、下魚(げざかな)扱いされており人気はなかった。だからこそ、敢えて「魚へんに旨い」と表現してPRした。洒落っ気がある。

この鮨を使ったPRは、主に関東の話らしく、西日本では昔ながらの「鮓」の文字を使う方が一般的らしい。

また、「寿司」という表現は「寿」を用いた縁起の良い当て字とのこと。江戸末期にはすでに使われ始め、明治以降に急速に広まった。ハレの日に食べる寿司、というイメージは現代にもなお続いているように思う。

すし通 (土曜文庫)

すし通 (土曜文庫)

 

 

お任せコースは職人の理想とするストーリー

最近のお店では、お任せコースが主流らしい。その内容としては、白身(タイ、ヒラメなど)、赤身(マグロなど)、光り物(コハダなど)、貝(赤貝など)、エビ、イカ、ウニ、イクラ、煮物(穴子、ハマグリなど)といったネタ。これらをどの順番で食べてもらうことが理想か、と職人が真剣に考える。

ネタの写真は、こちらのサイトがわかりやすい。

www.nippon.com

基本、人肌で提供される握りの流れの中で、どのタイミングで、温度のあたたかいネタ、火で炙ったネタ、蒸したネタ、などを織り交ぜるのか。これらの無数の組み合わせパターンの、1つの答えがお任せコースだ。

最初の1カンの考え方も、お店それぞれ。白身からのスタートが主流だが、あえてマグロのトロを挨拶がわりにトップへ持ってくる場合もあるとか。

そう考えると、お任せコースを食べながら「お、次はこう来たか!」と順番の意図を感じながら食べるのも楽しそう。

 

 

「歌舞伎」と「すし」の意外な関係

すし本を読むと、必ずと言っていいほど歌舞伎の話が登場する。


・二葉鮨と歌舞伎の深〜い関係

前記事にも少し書いたが、銀座名店 二葉鮨の向かいに、歌舞伎座ができた。その立地もあって、菓子・弁当・寿司を意味する「かべす付き歌舞伎座鑑賞券」の寿司を担当した。楽屋への出前もしょっちゅうだったようで、役者との距離も近くなっていった。

こちらの写真(見づらいけど一番下)の暖簾は、二葉鮨に贈られたものだ。初代 中村吉右衛門をはじめ、六代目尾上菊五郎、七代目 松本幸四郎など、豪華な役者たちの名が連なっている……!

f:id:reicoouchi:20190812091433j:image


・すしの俗称「弥助」は歌舞伎「義経千本桜」

昔の人は、すしのことを「弥助」と呼んでいたらしい(現在は聞いたことないけど)

由来は、歌舞伎の有名古典「義経千本桜」の三段目「すし屋の段」に出てくる「つるべずし」の使用人 弥助だ。実はこの弥助、源平合戦に敗れ落ち延びた平維盛で、平清盛の恩義のあるすし屋店主 弥左衛門がかくまっているというお話。その後、複雑に絡み合うストーリーがとっても面白い演目だ。

歌舞伎好きが、「すしと言えば、弥助」と考えて、すしそのものを「弥助」と呼ぶようになったなんて。繋がりが面白い。

この演目、ちょうど、七月大歌舞伎で市川海老蔵さんが演じていた役だったりする。今このタイミングで知り得たことは、わたし的にとっても旬なタイミングだった。

f:id:reicoouchi:20190812091510j:image

 

助六寿司の由来は、歌舞伎十八番助六由縁江戸桜」

明治初期の演舞場 新富座(旧 守田座)にて、「かべす弁当」の寿司を担当していたのが蛇の目寿司。この時に納入していた寿司の組み合わせが「稲荷寿司と海苔巻き(かんぴょう巻)」だったと言う。

この組み合わせ自体は無難なもの。「このままでは芸がないなあ」と考えた店主は、「助六由縁江戸桜」のヒロイン「揚巻」であることに目をつけ、油揚げを使った稲荷寿司を「あげ」、海苔巻を「まき」と見立てて、「あげまき」と洒落てみせた。その上で、揚巻の間夫である助六にかけて「助六弁当」と命名。 

助六は、超人気演目。 それにあやかった訳だが、歌舞伎ファンの心理をうまくついている素敵な洒落。

助六は、現代の歌舞伎界にとってもなくてはならない特別な演目。歌舞伎座さよなら公演や歌舞伎座新開場のこけら落とし公演と言った重要な場で上演されて来た。

私も、十八代 勘三郎さんの七回忌追善公演で「助六」が上映されたとき、助六弁当を食べた。

f:id:reicoouchi:20190812091647j:image

 

 

文豪たちが綴るは「すし」へのこだわりと愛

すし本を読むと、必ずすしを愛した文豪たちの紹介が書かれてる。

今回は、気になる本をいくつかピックアップ。

岡本かの子 鮨

山田五郎さん曰く、すしから学んできた事は、昭和十四年の発表されたこの小説に全て書かれている、との事。

一つ一つ我がままがきいて、ちんまりした贅沢ができて、そして、ここへ来ている間は、くだらなくばかになれる。好みの程度に自分から裸になれたり、仮装したり出来る。 

鮨

 

 

池波正太郎さん「男の作法」

すしへの「こだわり」と「粋」を説く、大人のマナー本。(すしに限らず、天ぷら・うなぎ・そばなども学べる)

鮨屋へ行ったときはシャリだなんて言わないで普通に「ゴハン」と言えばいいんですよ 

男の作法 (新潮文庫)

男の作法 (新潮文庫)

 

彼は三年連用の日記を使っているそうだが、日記を新調した時には季節ごとに欠かさず食べておきたいものを記入していたという。彼の8月には「八月三十日前後、コハダの新子」と書くそうだ。ちょうど、今の季節^^

 

・女ひとり寿司 湯山玲子さん 

湯山さんご本人の体験エッセイである。

旅や冒険は、なにも、遠くに移動しなくても、日常のそこここに転がっているという考え方が私は好きだが、女ひとり寿司行為はその最たるもの

男女限らず、すしと真剣に向き合いたいならば、一人で行くべし。

女ひとり寿司

女ひとり寿司

 

 

 

結局のところ、「すし」は哲学に辿り着く

握りは、目の前の職人が素手で握ってそのまま皿に置く。客はそれを素手で食べる。

これって他のレストランよりも直接的だし、ガチな感覚。それ故、職人の向き合い方が、とても現れるのだと思う。

すし職人には、誤魔化しの効かないライブパフォーマンスが求められる。そこに立ち続けているすし職人には、己の信じる哲学があるに違いない。

こちらは、すきやばし次郎小野二郎さんの言葉。

一度自分で仕事を決めたら、どっぷりとその仕事に浸からなきゃいけない。
仕事に惚れなきゃだめなんだよ。仕事の不平不満なんて言ってる暇はない。技を磨くことに人生を賭けなきゃ。仕事で成功したり、立派だと言われるようになる秘訣は、こういうことなんじゃないかな。

www.lifehacker.jp

二郎さんに注目が集まったのは、その哲学を映像と言葉に落とし込めたからに違いない。 

 

あの1カンの握りには、とても深い人生哲学が詰まっている。それを、私たちはリスペクトを持って食してゆく。

すしって、やっぱり特別だ。

 

楽しみは、つづく☺︎

 

関連記事

reicoouchi.hatenablog.com