ブラレイコ

ブラっと訪れた人生の寄り道からの学びを、ゆるふわに綴る場所

“粋”と”品”が同居する「銀座のすし」って何なんだ

先日、銀座のおすし屋さんに連れて行ってもらった。記念すべき「銀座のすし屋」デビューだ。

伺った先は、銀座七丁目にお店を構えてまだ3ヶ月の新店舗。とある有名店の2番手の方が、独立して出されたお店らしい。技術はもちろんのこと、大将のお人柄が最高!と紹介いただき訪問に至る。

 

料理はどれも格別。空間の居心地も最高。大将がとても優しく、朗らかなお陰様で、初心者でも心地よく過ごすことができた。

さらに印象的だったのは、大将の独立への想いとこだわり。銀座に店を出すという、すし職人にとってとても大きな覚悟のような「特別な何か」があるように感じた。

すし職人の心をそこまで動かす「銀座のすし」とは何なのか。

無性に知りたくなり、すしに関する本を手にすることにした。

 

歴史からみる、銀座のすし屋

もともとは、庶民に愛された屋台だったすし屋。高級と言うイメージがついたのは、極めて最近の話だった。

戦後の高度経済成長のタイミングで、すし屋のスタイルも進化した。カウンターに座り、ケースの中にあるネタを指定して握ってもらうスタイルは、この時代に確立されたらしい。

ちなみに、1958年(昭和33年)に回転ずしが大阪で創業し、全国に広まっていく。その結果、高級すしと庶民派のすしの二極化が生まれることになる。

「銀座のすし」を調べると、老舗と言われるいくつかの系譜があることが分かる。ここでは、素人のわたしが特に気になったお店をご紹介。

 

・二葉鮨(1877年創業)

銀座のすしは、二葉鮨から始まるといっても過言ではない、との事。ここから二葉四天王(おけい寿司、源、なか田、きよ田)が育ってゆく。

戦前までは昭和通り沿いにあったそうだ。創業12年後に店の向かいに歌舞伎座ができ、初代 中村吉右衛門さんは「芽柳や楽屋の前に二葉鮨」と詠んだことがあるらしい。当時の歌舞伎座では、「かべす付(菓子、弁当、すし付き)」チケットがあり、すしは二葉鮨が納めていたとのこと。そんなご縁もあって、梨園のご贔屓は今日まで続いているのだとか。歌舞伎と銀座のすしも、色々繋がりがあって興味深い。

二葉鮨  東京都中央区銀座4-10-13

https://tabelog.com/tokyo/A1301/A130101/13014814/

 

久兵衛(1885年創業)

秋田出身の久兵衛は、二葉鮨と並び称された、今はなき老舗 美寿志に入る。江戸っ子でなかった故の努力と覚悟から、客の要望に命懸けで応えようとする。今日では当たり前の発想「料理はサービス」という哲学はここから生まれたらしい。

1代目久兵衛が築いたのは、古き良き「粋」を近代化させた高級感。魯山人は「古臭い寿司屋形式を排し、一躍近代感覚に富むところの新建築」と評した。そこに2代目の新しい価値観「すし屋の旧弊をなくすこと」が加わる。不明瞭な値段や常連と一見の差を無くすなど。1代目のベースに「気兼ねのなさ」を融合する。

こうやって老舗というのは、新しく進化するのだなあ。

銀座 久兵衛 銀座本店   東京都中央区銀座8-7-6

https://tabelog.com/tokyo/A1301/A130103/13002611/

 

・すきやばし 次郎(1965年創業)

静岡から上京した二郎さんは、銀座御三家の一角 京橋 与志乃に入り、支店の店長を任されるまでに成長。

その時だった。支店がテナント契約の折が合わずに撤退が決まった際、ビルのオーナーに頼まれ、二郎さんは独立を決意する。「この機を逃せば、一生銀座で店は出せない」と、不義理を覚悟の苦渋の決断だった。結果、与志乃の恩師の逆鱗触れ、疎遠となった。今も心残りなのだそう。

次郎では、オーソドックスな江戸前ネタのみを扱う。飾らない店内、ネタの美しさ、握りのスピード。技術と費用と時間すべてが、すしに集約されている。無限の高みを目指す職人の、ある種わがまま。「そのわがままを許していただけるのが銀座という街」との言葉に、その覚悟の重圧を感じる。

すきやばし 次郎   東京都中央区銀座4-2-15 塚本ビル B1F

https://tabelog.com/tokyo/A1301/A130101/13002260/

 

・銀座よしたけ(2010年創業)

店主 吉武さんの経歴は、おもしろい。フレンチのシェフに憧れるが、父の勧めですし職人へ。全国展開している寿司田に就職、その後24歳の時にニューヨークマンハッタン店に栄転。その後、日本に戻りすし割烹、和食店で修行の末に、独立。

研究を怠らず、質を高める努力を続けるが、新規獲得には繋がらず。そんな折、ミシュランガイドに自ら申請。初登場で三つ星獲得という、快挙を遂げる。質へのこだわり、努力が実った瞬間だった。その後、注目が高まり一気に人気店となる。

現在は、香港支店もミシュラン三つ星を獲得。グループ合わせて六つの星を持つ。

鮨 よしたけ   東京都中央区銀座7-8-13 Brown Place 9F

https://tabelog.com/tokyo/A1301/A130101/13024076/

 

以上、老舗からグローバルに活躍する店舗まで。代表的な4店をご紹介。

これらは、分かりやすく系譜が図解されている山田五郎さんの書かれた本を参考にした。

銀座のすし (文春文庫)

銀座のすし (文春文庫)

 

 

 

特別な場所であり続ける、銀座のすし

ここには、歴史がある。明治時代から現在に至るまで、すし職人たちは、その技術を継承しながら革新し続けてきた。だから、ここは いつだって最前線であり続ける。

銀座のすしには、「粋」と「品」が同居している。魚と米という最小の素材で、無限の高みを追求し続ける。この発想は、素材の掛け合わせを許容する他の料理とは異なり、ある意味 日本らしいのかもしれない。

この独特な文化が育つことを許した街が、銀座なのだ。そう思うと、店を出すことにも覚悟だけれど、それ以上に銀座で継続していくことの難しさ、その高い山に居続ける覚悟と言うものは、計り知れない。

 

そして、今、このシンプルなすしは、ミシュランの星獲得により世界へと拡大している。

いつの日か、「銀座のすし」が世界中で食べられる世の中になるのだろうか。

「銀座のすし」が「世界のすし」になっていくのは日本人として誇らしいけど、「銀座」と言う言葉の意味が薄れてしまうのは何となくさみしい。

 

 

楽しみはつづく☺︎