20年憧れ続けた「奈良ホテル」へのラブレター
このポスターに最初に出逢ったのは、20年ほど前のこと。
「クラシックホテルの仲間たち」と題して、戦前・戦後の日本の西洋ホテルライフの礎を築いてきた、日光金谷ホテル・富士屋ホテル・万平ホテル・奈良ホテル・東京ステーションホテル・ホテルニューグランドが紹介されている。
当時大学生の私は、埼玉にあるジョンレノンミュージアムカフェのオープニングスタッフをしていた。このカフェは、ジョンと所縁のある軽井沢の万平ホテルが出店しているとのことで大変な人気だった。
万平ホテルは、言わずもがな日本を代表するクラシックホテル。創業は1894年。
ジョンレノンミュージアムカフェには、万平ホテルのスーシェフやバーテンダーをはじめ数名の現役スタッフが働いていた。
私は、ホテルの歴史やジョンとのエピソードを毎日のように教えてもらった。大学が休みになると、万平ホテルに何度も遊びに行かせてもらった。そのときに、万平ホテルの廊下で見たのが、このポスターだった。
"万平ホテルのような素敵なホテルが、日本にはいくつもあるなんて。いつか行ってみたい"
クラシックホテルへ憧れを抱くようになったキッカケが、まさにこのポスターだった。
そして、20年越しの再会
20年の年月が過ぎ、ついにクラシックホテルの1つである奈良ホテルに泊まることになる。
それはとてもサプライズだったので、このタイミングで泊まれるなんて思ってもなかった。本当に夢のよう。
奈良ホテル | 公式サイト Nara Hotel Official Site
一歩足を踏み込めば、110年の歴史を刻み続けてきたノスタルジックな世界が広がる。この空気は、シティホテルには絶対に真似ができない。格式があるけど、どこか優しくて人間味のある空間。
入り口すぐ、ロビー正面に広がる階段。こげ茶×渋い赤の落ち着いた色合い。
ロビーから見上げると、二階まで吹き抜けの天井。ぐるりと回る二階の廊下、その先に大きな絵画。
そして、至る所に長年大切に丁寧に使われてきた味わいある品々。
ロビーの階段の欄干にある擬宝珠(ぎぼし)。元々は金属だったのが、戦時中の金属回収令により回収され、代用品として奈良の工芸である赤膚焼(あかはだやき)で創られたらしい。(大塩正人窯:七代目作)
桜の間にあるアインシュタインのピアノ。1922年、アインシュタインが宿泊したときに実際にこのピアノをひいたとのこと。
この空間にいるだけで、誰もが歴史の一員となれる。歴史のストーリーに自分のストーリーを重ね合わせられる。
例えば、こんな妄想ストーリー。
1922年、奈良ホテルに宿泊していたアインシュタインは、このピアノを見つける。旅先の日本でピアノを弾きたいと感じた。
それから月日が経ち、アインシュタインが弾いたとされるピアノを、大切に保管したいと言う人が現れる。その想いが実り、奈良ホテルの桜の間に、アインシュタインのピアノとして展示されることになる。そして現在、毎日ピアノを丁寧に清掃しているホテルのスタッフが居る。そのお陰で、宿泊客はこのピアノに想いを馳せる事が出来ている。何という奇跡。
このピアノを前に、一体どれだけの人が心を動かされたのだろうか。
歴史を刻む品々に興奮が止まらない最中、廊下の壁にこのポスターを見つける。
その瞬間、20年前、万平ホテルの廊下でこのポスターを見たときの自分が蘇る。
ああ、あの時も興奮してたっけ。今も昔も、自分のなかの変わらないものに気づかされる。
センスあるデザインの数々
奈良ホテルをはじめとするクラシックホテルは、ロゴやフォントのデザインが素晴らしい。
純粋な和ではなく、程よく和洋折衷されたこの感じがたまらなく好きだ。110年経っても古いなんて思われない、圧倒的なセンスがある。
こちらは奈良ホテルのコースター。Nara Hotelのフォントから格式を感じさせられる。そして、正倉院宝物の鹿草木夾纈屏風(しかくさききょうけちのびょうぶ)を彷彿とさせるデザイン。さすが、歴史ある奈良!
ホテルの中にあるショップには、様々なグッズを販売していた。オリジナルグッズのデザインがどれも可愛くて、全部欲しくなる。
こちらは、オリジナルブレンド紅茶。高貴な紫が奈良ホテルにピッタリ。
こちらは、オリジナルの香り袋。鹿デザインの巾着が可愛らしい。香りがなくなった後も、使えそう。
奈良ホテルの思い出に浸りながら、オリジナル紅茶をいただくのが、今後の楽しみ。
本当はもっとたくさん奈良ホテルグッズが欲しかったけれど、さすがに全部は買えず。
また来よう、と心に誓う。
今と昔が交差する、クラシックホテル
ホテルに何を望むかは人それぞれだけれど、「泊まる」という行為だけを望むなら、クラシックホテルには行かない方がいい。
快適さや最新設備、価格の安さの追求には、リゾートホテルやシティホテルが断然いい。
クラシックホテルを満喫するには、「泊まる」以上にその歴史や空間を楽しもうとする気持ちが必要だと思う。
憧れのジョンレノンやオードリーヘップバーンが滞在していた空間を感じてみたいとか、
歴史的建築物や美術品に囲まれ、その時代に想いを馳せたいとか、
100年以上多くの人の感動をつくり続けてきたホテルのホスピタリティを感じたいとか。
クラシックホテルに来る人には、何かしらの想い入れがあるはず。
だから、ホテル内を歩くときにも、自然と廊下や天井に目が行くし、柱にある傷や修理の跡に愛おしさを感じてしまう。
ホテルの様々な空間で、自分(今)と歴史(昔)が交差して行くような感覚が、心地よいのである。
クラシックホテルは続くよ、いつまでも
今回調べてみて分かったが、あのポスターから新たな動きがあり「日本クラシックホテル協会」たるものが出来たようだ。
加盟ホテルは、当初の6つのホテルに加え、新たに3つ増えている。(蒲郡クラシックホテル、雲仙観光ホテル、川奈ホテル)
日本クラシックホテルの会 Japan classic hotel association.
日本のホテル黎明期に創業し、戦前・戦後を通して西洋のホテルのライフスタイルを具現化してきたクラシックホテル。現存する歴史ある建造物、歴史上の人物が愛したレストランや客室。ホテルに一歩足を踏み入れて、目を閉じて聞こえてくるのは、長い時を旅した歴史の息遣い。たくさんの物語が生まれてきた、クラシックホテルの旅をお楽しみください。
なんと素敵な説明文。
そして、クラシックホテルパスポートなんてものまである。ファンにはたまりません。
奈良ホテル宿泊分、スタンプ貰ってはいない。もっと早く知りたかった……!!涙
西洋文化を取り入れながらも、日本オリジナルな融合文化や建造物をつくってきたクラシックホテルたちが、これからの未来にも受け継がれていきますように。
わたしも微力ながら、その魅力をより多くの方に知ってもらうべく、発信していこうと思います。
兎にも角にも、20年の年月を超えて、この想いに気づくことができてとても嬉しい。
2019年春、特別な時間を過ごすことができました。
最後の一枚は、レストラン三笠で食す茶粥定食の写真。
せっかく出逢えたのにもうお別れだなんて。出発の日の朝ごはんは、少しせつない。
楽しみはつづく☺︎