心の向いた先には「平常心是道」
先日のこと、虎屋赤坂ギャラリーにて出逢った言葉。
紀元前から中国で使われている篆書体(てんしょたい)で書かれた「華風月雪」という作品。
このギャラリーは、とらや商品パッケージを担当されている古郡達郎さんの書を展示したもの。
虎屋 赤坂ギャラリー「とことわの書―自然のことば―」開催のお知らせ | とらやの和菓子|株式会社 虎屋
ギャラリーの中心に飾られていたのが、写真の四つの漢字だった。
篆書体で書かれた、一文字一文字の迫力はもちろん、この四つの漢字の元となっている歌に惹かれた。
心に止まる言葉というは、その時の自分に必要なものだと思うので、その意味と背景を理解すべく調べてみることにした。
行き着いた先は…まさかの禅書「無門関」
その歌が、こちら。
「春に百花あり 秋に月あり 夏に涼風あり 冬に雪あり
もし、閑事の心頭にかくる無くんば すなわちこれ 人間の好時節」
春に花が咲き、秋には明月が天に輝く、暑い夏には涼しい風が吹き、冬には雪がさえざえしている。
もし、つまらぬことに心を煩わすことなく過ごせれば、毎日が幸せなことである。
この言葉の出所は、中国宋代の禅僧、無門慧海(むもんえかい)の書いた禅書 無門関(むもんかん)というものだった。
無門関を調べてみたが、たいへん難しく…、最初から読もうとは思わないタイプの本。こう言った出逢いがなければ、手に取ることはなかっただろう。
構成としては、1から48に分かれており、それぞれに
・「評唱」(無門慧海の解説)
・「頌(しょう)」(詩経、詩)
が付けられている。
今回わたしが出逢った言葉は、無門関の十九則の頌に書かれていたものであった。
参考:無門関:その1
平常心是道(びょうじょうしんこれどう)という教え
せっかくなので、十九則だけでも読んでみる。
本則:
南泉(なんせん)、因みに趙州問う、「如何なるか是れ道?」
泉曰く、「平常心(びょうじょうしん)是れ道」。
州云く、「還(かえ)って趣向(しゅこう)すべきや?」
泉曰く、「向わんと擬(ぎ)すれば即ち乖(そむ)く」。
州云く、「擬せずれば、争(いか)でか是れ道なることを知らん」。
泉曰く、「道は知にも属せず、不知にも属せず。
知は是れ妄覚(もうかく)、不知は是れ無記(むき)。
若し真に不疑の道に達せば、猶お太虚の廓(然(かくねん)として洞豁(とうかつ)なるが如し。
豈(あ)に強いて是非す可(べ)けんや」。
州言下に頓悟す。
書き写したところで、よく分からないので、現代訳を調べる。
ある時南泉和尚は、趙州から「道とはどんなものですか?」と質問された。
南泉は云った、「平常心(びょうじょうしん)こそが道である」。
趙州は云った、「やはり努力してそれに向うべきでしょうか?」
南泉は云った、「意識してそれに向かえばかえってそれてしまうよ」。
趙州は云った、「何もしないでいて、どうして道であると分かるのですか」。
南泉は云った、「道は知るとか、知らないとかいうものではない。
知ったと言っても間違いだし、知ることができないとも言えない。
若し本当に疑いもない道に達することができれば、晴れた大空のようにカラリとしてこだわりも無くなる。
どうしてあれこれ是非を言うことがあろうか」。
趙州はこれを聞いた途端に悟った。
んー……んーー……わからない。わからない。
難しいですね。
道(タオ)を悟ることは、到底至らないのだけれど、いまのわたしの解釈として纏めてみる。
歩むべき道は、その人の無意識として出るものだから、努力したり意識してなろうという時点で、真の歩むべき道ではない、という事でしょうか。
この難しいなあ…… のモヤモヤ状態で、先ほどの詩を今一度目にしてみる。
「春に百花あり 秋に月あり 夏に涼風あり 冬に雪あり
もし、閑事の心頭にかくる無くんば すなわちこれ 人間の好時節」
この詩は、歩むべき道へ至るまでのヒントとなる、日常の心がけを教えてくれているのかもしれない。
そのときの心を味わい、積み重ねること
たぶんそれは、今起きてることについて、丁寧に自分の心で感じ取るということかもしれない。
これって、意外と難しくて、別のことに気をとられたり、複数なことをやって気が散漫になったり、気がかりなことあると心ここに在らずになったりしてしまう。
目の前のことに心を向けたら、
空を見あげて自然の美しさに感動したり、
目の前の食事を味わい 作り手への感謝が湧いたり、
好きな人と何でもない時間を過ごすことの有り難さを感じたり、
するのかもしれない。
それらを心で感じる経験を日々積み重ねていくことで、生きる「道」が作られるのかもしれないなあ。
今回もまた、虎屋さんに素晴らしい学びをいただいた。
今日ここに来なかったら、平常心是道の教えに出逢うことはなかったな。未熟なわたしなりに、やってみるよ。
ありがとう、虎屋さん。
そして、楽しみはつづく☺︎