ブラレイコ

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北斎とジャポニスムと、馬渕館長

本日は、上野の国立西洋美術館で開催中の「北斎ジャポニスム」を鑑賞。

hokusai-japonisme.jp

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▲この特別展のテーマカラーは桃色と紺色。上品なコンストラストがとっても素敵!

 

なぜ、北斎ジャポニスム

そもそも、ジャポニスムとは何か。

新しい美術表現を模索していた西洋の美術家が、日本の表現の方法を取り入れ、自分たちの芸術を発展させたのが、ジャポニスムなのです。

北斎とジャポニスムより

19世紀中頃、西洋美術がこれまでの長い伝統から抜け出し、近代美術として自立するきっかけのひとつが、ジャポニスムと言われている。 


今回の特別展の最大の魅力は、北斎の絵に影響を受けた西洋画と、影響を与えた北斎の絵を並べて鑑賞ができるところにある。


例えば、こんな感じだ。

エドガー・ドガ 《踊り子たち、ピンクと緑》  葛飾北斎 『北斎漫画』十一編(部分)
エドガー・ドガ「踊り子たち、ピンクと緑」/ 葛飾北斎北斎漫画 十一編」

 

ジョルジュ・スーラ 《とがったオック岬、グランカン》  葛飾北斎 《おしをくりはとうつうせんのづ》

ジョルジュ・スーラ「とがったオック岬、グランカン」 / 葛飾北斎「おしをくりはとうつうせんのづ」

みどころ | 北斎とジャポニスムより引用

 

「偶然一致してるんじゃないの?」と思うかもしれないが、それは違う。

専門家から見ても、ジャポニスムの前と後では、西洋美術の構図・表現技法に大きな変化がもたらされたことは明らかであり、なかでも特に影響を与えたと言われるのが、葛飾北斎なのだ。

 

 

画狂人、葛飾北斎の素顔

画狂人(がきょうじん)とは、本人が名乗っていた名前のひとつ。その名の通り、北斎には個性的なエピソードが山のように残っている。

・89歳で亡くなるまで、生涯現役として70年間絵を描き続けた

・版画、浮世絵、風景画、挿絵など、幅広いジャンルで才能を開花

・名前を改号すること30回、北斎という名前すら弟子に譲っている

・引っ越し歴90回以上、絵に集中するあまり掃除をせず、汚くなったら引っ越すことを繰り返す

・弟子のための手本書「北斎漫画 全十五編」を制作、のちにフランス人画家たちの目にとまりジャポニスムの引き金となる

この北斎漫画は、いわゆるスケッチ画集のようなもので、日常生活の風景・人間・動物・草木・妖怪などが、4000点ほど描かれている。

www.ukiyoe-ota-muse.jp

タッチはシンプル、無駄な線はない。ごまかしがない。
本質を捉え、瞬間を描いているような…… ずっと見ていたい素晴らしい作品だ。 

 

 

馬渕館長の光る存在感

国立西洋美術館馬渕明子館長が、「北斎ジャポニスム」に関する解説動画を公開している。
その中の一節が印象的だったので、ぜひ紹介したい。

ジャポニスムの話をすると、西洋の芸術家に影響を与えた日本美術を誇りに思う、という人がいますが、それはちょっと違うのではないかと思います。

西洋の人たちは、日本の芸術に影響を受けながらも自分たちなりの新しい作品を生み出してきた。それをやり遂げた西洋人たちの吸収発展能力はすごい。

日本人は、明治以降、北斎を大切にしてきたのか?北斎を引き継ぎ発展させたか?と言いたい。日本人には、北斎をもっとたいせつにしなかった自分たちを反省してもらいたいと私は思います(笑)

 

馬渕館長、キレ味最高〜!

つまり「北斎ってすごい」「日本美術ってすごい」という結論は、少し浅はかということ。そもそも、美術鑑賞というのはどっちが優れているとかを評価するものでもなく、自分の感性で感じられれば良いものだし。

 

この特別展は、「異文化を受け入れ新しいものを生み出す素晴らしさ」をわたしたちに教えてくれているのかもしれない。

ジャポニスムというテーマ故に、今回はあくまでも西洋美術が主役だが、北斎も西洋美術の影響は受けている。

かの有名な「富嶽三十六景」は、西洋画の遠近法を取り入れつつ、北斎流のデフォルメや平面化を施すことで、新しい自然風景のデザインを生み出しているのだ。

そして、その大胆なデザインを見て、今度は西洋の画家たちが影響を受けて、新しいものを生み出していく。

相互に影響しあって、相互に技術発展しているのだ。

 

「異文化を受け入れ新しいものを生み出す素晴らしさ」とは、いまの日本企業に求められるイノベーション創出そのものかもしれない。


今回の特別展、じつに深い。素晴らしいテーマだ。
これを企画し伝道されている馬渕館長って、本当に素敵。すっかりファンになりました。

ぜひ、多くの方に、館長の解説動画 もっと楽しむQ&A | 北斎とジャポニスム をご覧いただきたい。

 

ちなみに、館長の肩書きも大変ユニークであり、人としての広さと深みを感じずにはいられない。(とくに赤字部分……! )

馬渕 明子(まぶち・あきこ) 1972年東京大学教養学部フランス科卒業。78年同大学院人文科学研究科美術史博士課程満期退学。独立行政法人国立美術館理事長、国立西洋美術館館長、美術史家、文化審議会委員。2014年3月、日本サッカー協会副会長に就任。2015年4月、日本女子サッカーリーグ理事長。

 

兎にも角にも、
今日は、作品の裏にある芸術家たちの果てない向上心と、それを伝える素晴らしい館長に出会えたことに感謝である。

 

上野に来て、良かった〜!

 

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▲最後に1枚。入り口にある北斎の代表作「神奈川沖浪裏(かながわおきなみうら)、通称グレートウェーブ」のモチーフ。

この無駄のないダイナミックさ、たまりません。

 

 

楽しみはつづく☺︎