受け継がれゆく日本人の洒落心
お世話になっている先輩が、来夏に定年を迎える。
その人は、教養が深く、頭の回転が早く、洒落が効いていて、周囲をいつも笑顔にしてくれる素敵な人だ。
その人の発する言葉には、品・教養が感じられ、優しさがあり、「遊び」がある。だから、「洒落が効いている」と言いたくなる。
今回は、先輩の魅力である「洒落」について、あれこれ考えてみたい。
洒落の語源
まずは辞書で調べてみよう。
「しゃれ」は、たわむれる、遊ぶという意味の「戯れ(ざれ)」や、洗練されている、あかぬけしているという意味の「され(曝れ)」などが変化した言葉。(中略)
語呂合わせなどの言葉遊びは、手軽に相手を笑わせることができ、会話をもりあげる手段でもあり、以前は洗練され遊び心のある人が使っていたことから、そのような言葉の遊びを「洒落」と呼ぶようになったのかと思われる。
www.fleapedia.com
そうそう、「洗練された遊び心のある人」という表現。わたしが感じる「洒落」のイメージにピッタリ。
言葉遊びで人を楽しませるには、知的さや教養、場を読む力が必要だ。
さらに、漢字の成り立ちを調べる。
漢字で「洒落」と書くのは、心がさっぱりして物事にこだわらないさまを意味する漢語「洒落(しゃらく)」に由来し、意味の上でも音の上でも似ているため、江戸時代の前期頃から、当て字として使われるようになった。 (中略)「洒」は「酉」ではなく「西」である。
gogen-allguide.com
なんということでしょう。
「洒落」の「洒」は「酒(さけ)」じゃなかったのか…… !!
(ご存知でした? 知らなかったの、わたしだけでしょうか? )
江戸のめでたい語呂遊び
「言葉遊び」から、ふっと連想したのが、手ぬぐいの柄だ。手ぬぐいに見られる和柄には、縁起の良い語呂遊びがたくさん潜んでいて、昔の人のユーモアセンスを感じずにはいられない。
いくつか紹介しよう。
まず、ひとつ目の柄はこちら。
▲「鎌」と「輪」と「ぬ」で、「かまわぬ」と読む。まるでトンチである。
「水火をかまわず、身を捨てて弱い者を助ける」という心意気を持った人が好んで着たのが始まりとされている。江戸時代後期、7代目歌舞伎役者の市川團十郎が舞台衣装で用いたのでも有名。
続いては、こちら。
▲ 茄子ちらしと呼ばれる柄。
物事を成す(なす)という意味から、茄子は縁起物として扱われていた。
オヤジギャグ的ではあるのだが、縁起がいいと聞くとシラけるどころかハッピーな気持ちになる。
最後は、こちら。
▲矢絣(やがすり)といって、弓矢の羽を縦にに繋げた柄。
矢は射ると真っ直ぐに進むため、後ろに戻っては来ない。そのため、江戸時代では、結婚のときに出戻らないように矢絣柄の着物を持たせていたという。
同じような意味で、トンボ柄というのもある。
トンボは、前にしか進まないという特性から、「勝ち虫」と呼ばれ縁起がよいとされてきた。かの前田利家も、トンボのデザインを兜に用いている。
今回紹介した柄以外も、語呂合わせによる縁起柄がたくさんある。
昔のひとは、手ぬぐいや着物など身に付けるものに、意味(しかも縁起のよい意味が多い)を持たせていたのだ。
遊び心があって、実に洒落ている。
以下は、参考サイト。意味を知ったうえで使いこなせると素敵ですよねぇ。
てぬぐい 柄の意味由来|かまわぬを「知る」/てぬぐいについて|株式会社かまわぬ
日本人のユーモアセンスに迫る
さて、続いては、言葉には限定せず、表現としての「洒落」に迫ってみる。
まずは、この作品。
▲ご存知、国宝・鳥獣人物戯画(ちょうじゅうじんぶつぎが)である。甲乙丙丁(こうおつへいてい)の4巻からなり、甲巻と乙巻は平安時代の後期、丙巻と丁巻は鎌倉時代に描かれたとされる。
作者は諸説あり特定されず、詳しいストーリーも不明。
なぜ、蛙と兎と猿なのか、何を意味するのかも分からないが、人間社会を擬人化した動物たちで描くユーモア溢れる表現に、影響を受けたクリエイターたちは数知れず。
現代でも鳥獣戯画を模倣したプロダクトが数多くある。
わたしは、こちらの ダ鳥獣戯画 – 鳥獣戯画ベクター素材化サイト が好きだ。
▲押すなよ、の図。笑
つづいては、ゆる〜い癒しの禅画。
【出光美術館】 開館50周年記念 大仙厓展――禅の心、ここに集う
▲江戸時代に福岡で活躍した、禅僧 仙厓義梵(せんがいぎぼん)の代表作「指月布袋画賛(しげつほていがさん)」。ぽっちゃり布袋さまとプリッとしたお尻の子供が、月を見上げている絵。
禅宗では、月は悟りを意味し、それを示す指は経典を意味する。
絵に描かれていない月は、そう簡単にはたどり着くことのできない悟りの境地。だからこそ、座禅を組み、ひたすら修行することが必要である、と説いているらしい。
ゆる〜い中に、ふか〜い意味を込めている仙厓の絵は、民衆に絶大なる人気があったそうだ。
ラストは、こちらの作品。
猫や人が入り乱れる!浮世絵の寄せ絵(だまし絵)まとめ | アート 日本画・浮世絵 - Japaaan
▲江戸時代の浮世絵師、歌川国芳(うたがわくによし)の「みかけハこハゐが とんだいゝ人だ」という作品。添えられている言葉の意味を次のとおり。
「大勢の人が寄ってたかって、とうとう、いい人をこしらえた。兎角、人の事は人にしてもらわねば、いい人には成らぬ」 とされる寄せ絵。
www.musey.net
歌川国芳は、武者絵・美人画・風景画に加えて、このような戯画も手がけている。遊び心満載のその作品は、いま見ても斬新。しかし、伝えているメッセージは普遍的なもののように思う。
また、猫好きでも知られており、猫のだまし絵の作品もある。
▲歌川国芳「なまず」。猫への愛から生まれたクリエイティブな発想。
こうして見ると、日本画には、昔からユーモアのある独創的な表現技法があったことがわかる。そして、人々を魅了してきた。
日本人が、マンガや、ゆるキャラが好きなのは、昔からの国民性なのかもしれない。
正月、洒落を効かせたいあなたへ
最後は、この時期にピッタリの御節(おせち)料理にまつわる「洒落」を紹介。
御節料理には、その食材と料理に、縁起ものが使われるのが特徴だ。
それぞれの意味をみてみよう。
【レンコン】穴があいてて、将来の見通しが良い。
【えび】腰が曲がるまで元気に長生きできますように。
【黒豆】家族が「まめ」に働けますように。また、黒色で邪気をはらって不老長寿。
【タコ】タコ=多幸、幸せの多い年となりますように。
【棒鱈】鱈腹(たらふく)食べられる、腹=福。
【伊達巻】巻物のイメージから、知識が増え文化発展の願い。
【昆布巻き】「こぶ」は「よろこぶ」で縁起良し。
まさに、洒落尽くし!
年末年始、家族への小噺として使えそうなネタの宝庫である。ぜひ、活用すべし。
「おせち料理の意味ってなに?」おせち料理の意味と由来、ルール | 東京ガス ウチコト
いまも昔も、人の心を動かす「洒落心」
洒落の効いた「和柄」も「日本画」も「料理」も、時代時代で庶民の心を掴んだからこそ、いまに受け継がれてきたのだろう。
古き良き考えや、未来へ受け継いでいきたいものを、真面目に、真っ直ぐに、伝えるだけではつまらない。だから、洒落を効かせて伝えていく。
そんな大人たちが増えると、世の中の笑顔も増えていくに違いない。
洒落心は、洗練された遊び心。心の余裕と知性をもった大人の楽しみ。
今回の記事のキッカケをくれた先輩は、まさにそんな大人だ。
その心意気、わたしも引き継いでいきたいなあ〜。
楽しみはつづく☺︎