小笠原流「折り方」が教えてくれた日本の心
今月のGENUINE JAPAN の講座にて、小笠原流三十一世宗家 小笠原 清忠 氏から「 折り方」を学ぶ。
宗家直々に伝授いただいたその内容は、これまでの常識を覆すものだった・・・!
小笠原家と礼法
まずは、小笠原家の歴史から振り返ろう。
小笠原家は、足利家や徳川家と同じ清和源氏(せいわげんじ)の家系。小笠原流として、武家故実(ぶけこじつ)、弓術、弓馬術、礼法の流派として知られている。
その歴史については、GENUINE JAPAN のHPに分かりやすく纏まっていたので引用。
初代小笠原長清は、源頼朝の礼法、弓術、弓馬術の師範となり、1187年に鶴岡八幡宮にて源氏としての流鏑馬を披露しました。その後、小笠原家は、江戸時代まで代々の将軍家の師範役を務めてまいりました。明治維新により、武家社会が終焉を迎えた後は、一般に門戸を開き、「流儀を教えることで生計を立ててはならない」という家訓を守り、現宗家三十一世小笠原清忠も、他に仕事を持ちながら、全国の門人と共に、流鏑馬や弓術、礼法の儀式を各地で執行しております。
今回講師を務めてくださった、宗家こと三十一世小笠原清忠 氏のプロフィールはこちら。寡黙で怖い方かと思いきや、厳しさの中にユニークさもあり、終始楽しく受講することで出来た。
折り方(おりかた・おりがた)
今回のテーマ「折り方」。言葉自体に馴染みはあまりないだろう。しかし、現代の冠婚葬祭マナーのひとつとして、わたしたちにも一部受け継がれているものだ。
例えば、ご祝儀を渡すとき。わたしたちは、お金をそのままの状態では渡さずに、紙で包んで渡す。コンビニなどで熨斗袋を購入した経験が、大人なら一度はあるはず。
この紙で包んで、飾りをつけて贈るという文化こそ「折り方」だ。室町時代から始まったとされる。
小笠原家には、なんと…数百種類(!)の折り方が伝わっているそう。それぞれ包む物によって異なり、同じ物を包むにも、真・行・草と異なる折り方があるらしい。
ここで、小笠原流の折り方の実写をご紹介。
※折り方と折形、両方使うときがあるみたい。こちらのサイトでは、折形と表記されている。
美しい・・・。
まるでアート作品のよう、と感想を言いたくなるのだけれど、否。これは礼法であり、相手への想いがあるからこそ存在するのだ。
熨斗袋をつくってみた
今回の講義で作った熨斗袋は3種類。宗家のご指導は、口頭のみなので、ついていくだけで精一杯。そのため、制作プロセスの写真記録はなく…完成写真を見ながら、伝授いただいたポイントを思い出していきたい。
▲今回、実際につくった熨斗袋。左から、婚礼用、祝儀用、不祝儀用。
それぞれ、紙の種類・枚数・大きさ・折り方は異なる。例えば、見るからにボリューミーな婚礼用は、紙も厚めで枚数も唯一2枚重ねて使っている。豪華に見えるし、おめでたい席にはピッタリだと思う。
- 折り目
手づくりによる特徴のひとつに、“ふんわり感”がある。横から見るとわかりやすい。
紙の上下の折り目はつけ過ぎず、敢えて丸みを残す。手作りならではの味わいがある。
「コンビニの熨斗袋しか知らないと、ペタンコにしてしまいます。あれは、販売するのに重ねやすいから。本来は、この形です。」
と宗家のお言葉。
ほぇー!そうだったのかあ。コンビニの熨斗袋が日本のしきたりと思い込んでいた自分にハッとする。昔はコンビニがなかった訳だから、自分でつくるのが当たり前だったのですねえ…。
- 水引
つぎに、苦労したのは水引の結び方。
▲こちらは婚礼用の水引き。普通のより固めなので一層結ぶのが難しい。
結ぶ上で大切なのは、結び方と水引が揃ってることと締め具合。写真の仕上がりは、締め方が緩めになっているのと、一本一本揃っていないので…残念ながら上手くいってるとは言えない結び方。
今回は5本の水引でやったが、これが7本など増えたらより一層難易度は上がる。
「水引がクルリと上を向いていないからダメだと思う必要はなし。結んだら、袋の幅に合わせて切ればよい。」
と宗家のお言葉。
ほぇー!そうなんですね。これまたコンビニ熨斗袋のイメージが先行していた。上向きが縁起良いと思っていたけど、今回の結び方(こまむすび)についてはこれで良いみたい。
・熨斗
そして最後は、袋に添える飾りを作る。初めて知ったのだが、この飾りの名前が「熨斗」なのだそう。
▲この小さな熨斗も、折り紙を必要な大きさにカットするところから自分で作る。
今回の講座で、唯一この折り方のみ、貼り紙による解説があった。
その写真がこちら。
▲貼り紙がシワシワ・・・(笑)小笠原家に、親しみを感じた瞬間である。
この図面どおりに折り紙を切って、折っていく。最初に、4.7cmの正方形を作るのだけど、ミリ単位の作業で結構大変。わたしの熨斗は、結果的に左右1mmのズレが生じてしまった。
コンビニ熨斗袋で培ってしまった、私たちの常識
さて、熨斗袋を一通りつくり終えたら、実際の使い方の説明へとうつっていく。
「お祝いやお礼でお金を包むとき、袋の真ん中上段に書くのは、”お祝い”などではなく、そのお金で何を贈りたいかを書きます。お菓子を贈りたいなら、”御菓子料”、ランドセルを贈りたいなら”ランドセル料”、お食事代を渡するなら、”酒肴料(しゅこうりょう)”といった具合です。」
ほぇー!!そうかあ。そうだったのかあ。
相手の好みが分からないからお金をお渡しするのであって、何を贈りたいかの気持ちはしっかりと伝える、というのが礼儀なのですねぇ。
「”御菓子料”と記載したら、その下段には、個数か金額を書きましょう。自分の名前は、真ん中には書きませんよ。左下の端っこに、寄せて書きます。」
ほぇー?!そうなの?!
コンビニの熨斗袋の後ろには、名前を真ん中に書くようになってるけど・・・。そうかあ、そうなのかあ。わたしの常識だったコンビニ熨斗袋の知識と、いろいろ違って驚くばかり。
「お金を包むのに、内袋は使いません。いま、みなさんが作ったものこそ、お金を包むための熨斗袋なのですから。また、新札でないといけない、という決まりもありません。綺麗なお札があれば使いますが、大切なのは相手への気持ちです。」
ほぇ・・・いや、これはその通りだ。
大切なのは気持ちですよね。ここに来て、礼法の大切にしている本質に触れられた気がした。
「折り方」の世界に触れて思うこと
全く知らなかった「折り方」の世界。
ーーー 誰かにお祝いやお礼をするときは、相手に合った色・素材・形・数の紙と水引を用意する。一つ一つ丁寧に切って折り、気持ちを込めて水引を結ぶ。そして相手へ贈る気持ちを言葉にして袋に書く。最後に、熨斗を飾って完成。
「折り方」は、相手を思う心が一つ一つの型となって現れているようだ。
昔に比べると、現代の日本人には、心を込めた所作が少なくなっているようにも感じる。コンビニの熨斗袋を批判するわけではないが、手軽さや効率さを求めた結果、相手を想い敬う時間は減ってしまった。
熨斗袋を渡す時間は、一瞬かもしれないけれど、相手にとって特別な瞬間なことは間違いない。
その時に、自分がどう在りたいのかを問われている気がする。
今回学んだのは、小笠原流 礼法のほんの一部に過ぎないけど、それでも、相手を想い敬う気持ちのたいせつさに改めて気付かされた。
日本の伝統文化から学ぶべきこと、まだまだたくさんあるなあ。
はぁー、今回も勉強になりました。
楽しみはつづく☺︎